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ラストラン ②アグネスデジタル

「キングヘイローがまとめて撫で切った!!」

時計の針を大きく進める。そう、あの高松宮記念だ。
鮮烈な末脚が弾けて緑のドレスが先頭に躍り出るとスタンドは大きく揺れた。
栄光、そして念願のタイトルをようやく手にした実感は、全力を振り絞ってゴールを駆け抜けて、真っ白になった視界に色が戻ってきた時に彼女に去来した。


「っ………しゃああああああ!!」


ゴール板を越え、やっとの思いでする呼吸が整った時、彼女は雄叫びを挙げた。

ここに至るまでにあった色々な事。シニアシーズンの出だしは抜群だったが、その後は苦難の道のりが延々と続いた。どの距離、どんな作戦が自分たちに向いているのか模索する日々、勝てない苛立ちにベテラントレーナーと衝突することなど日常茶飯事だった。前任のルーキートレーナーとの再会もあった。クラシックの時と比べ今のキングはどう変わったのか、そこから見えるヒントはないか。ベテランにとっては苦肉の策であっただろうが、キングは意外にもすんなりと前任の助言を乞うことを許した。藁にもすがる思いで勝利を欲し、辿り着いたスプリント路線という選択。そして、今。

雄叫びを挙げ、天を見上げながら自分の足取りを振り返りキングは微かに笑った。
そして視界と共に徐々に蘇る音、声。
わああああああとスタンドが鳴り、揺れている。自分の勝利をこれだけの人が待っていてくれたという事実がキングにとっては意外だった。自覚していたのだ、今まで自分は良家出身であることをプライドとし意地を張っていた。だから生意気な振る舞いで自身を鼓舞し、くじけない様にしてきた。その様は周りから見たら愚かに見えるだろう、惨めに見えるだろうと。身の丈に合わない10度のG1挑戦、この11戦目、当初クラシックを夢見ていた自分が流れ着くようにもぎ取った短距離王の座。そんな自分の泥臭い勝利に、これだけの祝福を贈ってくれている。たまらなかった。

大勢の観客で埋め尽くされたスタンドの正面に戻る。歓声がより大きくなる。
見やると、中には涙している者も居る。
その気持ちへの嬉しさで震えるのを我慢しながら、大きく深呼吸すると彼女は拳を突き上げながらスタンドに叫んだ。


「待たせたわね!やってやったわよ!!」


更に大きくなった歓声を後に、彼女は颯爽と地下バ道へと去っていく。そこにベテランの姿があった。静かにキングに拍手を向けるベテラン、目には光るものがあった。

「おめでとう…本当におめでとう。」
「あなたでも泣くことがあるのね。」
「こんな時ぐらい意地悪なコト言うのはやめてくれよ、大体君だって
 明らかに涙を堪えているじゃないか。」
「ふふっ」

潤んだ瞳で意地悪に笑いながら、キングが腰に手をあて息をつく。

「色々あったけど、あなたのおかげよ。まさかダートまで走らされるとは
 思っていなかったけど。」
「長く苦しませてしまった、ここまで耐えてくれた君の勝利だよ。」
「ふふっ!でも…これで終わりじゃないわ。ここからよ。」

静かにそう言ったキングに、ベテランは涙を拭きながら、少しの間を置いて「そうだな」と答えた。控え室に戻る彼女の背中を見守りながら、彼は自身で感じた予感を確信し、唇を噛んだ。


引き続き短距離からマイルのレース選択でのG1取りを狙う二人だったが、その後は掲示板にすら入れない結果も多かった。しかしキングが以前のような癇癪を起こすかと言えば、そういうことは全く無くなった。まるで自身を達観しているかのような彼女の姿にベテランは胸が締め付けられた。
夏合宿を終え迎えた秋のG1シーズン、目標に定められたのは11月のマイルチャンピオンシップ。
トレーニングとミーティングを終え、一息ついているとなんとも言えない間が流れた。二人とも解っているが言葉に出せない、このレースの結果が出てからにしよう。


ここまでか


結局、このレースも7着に敗れた。勝者は芝のレースで勝利経験の無かったアグネスデジタル。そう言えば夏合宿中に割とキングが親しげにしていたなとベテランが勝者を見ていると、そこに歩み寄るキングの姿があった。スタンドからでは何を話しているのか聞こえないが、敗れたにも関わらず誇らしげな所作を繰り返すキングに

「なるほどね、彼女らしい。」

と、切なく笑った。その後、いつも通りねぎらいの言葉をかけるも

「次走予定や今後の話は後日にしよう、今日はお疲れさま。
 とりあえず明日はゆっくり休んで。」
「ええ、そうさせてもらうわ。お疲れさま、トレーナー。」

あっさりとした解散。高松宮記念以降、こういうやり取りばかりだ。


その翌日のことだった。ベテランのトレーナー室のドアを叩く者が居た。

「あの、アグネスデジタルと申しますけど、キングヘイローさんの
 トレーナーさんはいらっしゃいますでしょうか?」

意外な来客にベテランが虚を突かれる。昨日の覇者が何故?ドアを開けると小柄なウマ娘がキリっとした顔をして立っていた。アグネスデジタル、トレーナーの間では「不審者」「保健室の常連」「倒れているウマ娘が居ると言えば大体デジタル」などと噂される問題児。ウマ娘に囲まれたくてトレセン学園に入学したんじゃないかという話もある。

「キングなら今日は休みだよ?」
「ええ、そうだと思っておりました。だから伺ったのです。是非とも
 トレーナーさんとお話ししたくて。」
「俺と?」

夏合宿やマイルチャンピオンシップの時のこともある、そこでキングがデジタルにどんな話をしていたのかベテランは確かに気になった。

「君も疲れているはずだ、本来ならレース翌日は学園を休むものだろ。
 そこまでして私と話を?」
「私のトレーナーさんには内緒にしておいて下さい…でも、今日じゃ
 なきゃダメなんです。あのレースを終えて、キングさんが居ない今の
 状況だからこそ私も話せるんです。」

噂のような危険人物感はない。ベテランは真剣な表情で訴えるデジタルの話を聞くことにした。

「こちらもいくつか聞きたいことがあったんだ。夏合宿から昨日の
 レースにかけて、キングは君に随分と目をかけていたみたいだが。」
「はい、それはもう本当に良くして頂いて…」

キングがデジタルに矜持を示し、それがどれだけデジタル自身にとっての教えとなったか。そんな話を興奮気味にデジタルは話した。デジタルはキングの狂信的なファンで、その走りをずっと見続けていたことも。苦戦を続けた果ての高松宮記念の激走に心打たれて、その勝者本人から習った様々な心得はデジタルにとって本当に大切なものだと彼女は語った。だからこそ。

「本当に君はキングのことを慕ってくれているんだな。」
「はい!」
「なら、大体これから君が言わんとしていることも解るよ。」
「…」

誤魔化す様にキングに対するありがたみを語っていたデジタルが、寂しそうな表情に変わった。


「あの、トレーナーさん。キングさんは…トゥインクルシリーズを降りる
 おつもりなのでしょうか?」


やっぱりな、という表情でベテランは苦笑いしため息をついた。

「キングさんには諦めない心の持ち方、何度でも挑み続ける姿勢、そう
 し続ける為の不屈の精神力…色々教わりました。」
「あの娘も偉そうにそういうこと語るの好きだからなぁ。」
「偉そうではありません!偉いのですキングさんは!」
「悪い悪い。で、何故そんなこと思ったのかな。何か感じ取れる部分が
 あったってことだろう?」
「…マイルチャンピオンシップで勝った時のことです、キングさんが
 私のことを称えてくれたんです。その時…」
「その時?」
「なんか…もうキングさんと一緒に走ることはないんじゃないかって。
 あの時のご教授がまるで最後の様だったので…」
「そういうことか…やっぱりあの娘らしいな。」
「オールラウンダーを目差し、たくさんのウマ娘ちゃんと競い合い
 なさいって。でも、そのご指示の中にはもうキングさんは含まれて
 いないんじゃないかって言い方に聞こえて…」

ベテラン自身も気付いてはいた。そしてデジタルの話を聞く限りではキング自身もどうやら「ここまで」を自覚しているのだと理解した。

「あ、あの!もしや私ごときに負けてしまったことが、その!!」
「おいおいおいおい本人がそれ聞いたらキレ散らかすぞ?」
「…」
「そんなんじゃないよ、君は鋭いけど意外と傲慢だな。自分のせいで
 なんて言うとはね。」
「う…すみません…」
「嬉しかったんだよ、教えを託した君が勝ったのがまるで自分のことの
 様にね。そこを勘違いされたら俺だって怒るぞ。ただあの舞台が限界の
 決め所になってしまっただけだ。君もキングのことを見続けていたの
 なら解るはずだ。」
「…」
「不屈、とは言っても、キングの脚に残された火はもう消えかかっている。
 君があの娘に一番の眩しさを感じたのはいつだ?」
「高松宮記念です…というより、それまでは負けられてても色んな形で
 輝いていらっしゃいました。それが…」
「その後は輝かなくなってしまった、と。」
「…はい。」
「ちゃんと見てくれていたんだね、本当に。あの娘もこんな後任が居て
 くれるなんて幸せだろう。」
「後任だなんてそんな…!」


「実際俺もね、高松宮記念でそれを感じていたんだ。キングのあの末脚は
 読んで字のごとく一世一代のものだった。まるで人生のロウソクの前借り
 をするかのような輝きだっただろう。」


あの時のベテランの涙の正体。勝てた喜びも大きいが、キングの余力をほぼ振り絞ってしまったという、トレーナーとしての情けなさ。そして、キング自身もそれを理解してたというのに言い出せなかった無力さ。あの高松宮記念のレース後の会話が思い出される、それまでのキングならば

「おーっほっほっほ!ここからキングのG1連勝街道の幕開けよ!
 更なる高みへ向けこれからもビシバシいくわよ、トレーナー!」

といった感じになるはずだ。その後のレースでも、負けたなら

「あなたの指導が悪いのよ、このへっぽこ!」

となるのがそれまでの通例だった。日毎に達観していくキングに、本人も解っているだろうがと思いながらも言い出せず今日まで来てしまった。そして、アグネスデジタルに感づかれる程、キングの火はやせ細ってしまった。


「未だに俺はトレーナーとして未熟なんだ。あの娘をここまで
 追い込んでしまってから、自分の情けなさに気付くとはね。」


アグネスデジタルは気まずそうにベテランの話を聞いていた。それに気付くとベテランはばつが悪そうに照れ笑いした。

「すまんな、おっさんの泣き言なんか聞かせてしまって。」
「いえ。でも…」
「でも?」
「実は、キングさんが一番眩しかったのは高松宮記念って言いましたけど、
 レースももちろん素晴らしかったのですが、一番かっこよかった瞬間って
 レース後だと思ったんです。」
「レース後。走っている姿ではなくてか。」
「はい。念願のG1に届いた時の雄叫び、大勢のファンの前での勝ち名乗り、
 これこそが皆が見たかったキングヘイローだって雰囲気の中でそれに応える
 キングさんの力強さと麗しさときたらもう…あ、すいません。ヨダレ出た。」
「…!!」

ベテランがハッとする。やはり自分は無能なトレーナーだ、まだ気付くことはあった。

「やっぱりキングは幸せな娘だよ、君に見ていてもらえたんだから。」
「はい!?」
「今日は話をしにきてくれてありがとう、デジタル。色々参考になる部分が
 あった、今後に活かさせてもらうよ。」
「ちょ、今後!?だってさっきまでしんみりとキングさんはもう限界だと、
 その、私もそうなんじゃないかって言いましたけども!?」
「すまん、仕事ができた。君も疲れているだろう、トレーナーに見つから
 ない様に気を付けて帰るんだぞ。」
「仕事ぉ!?」


「このまま終わるのはもったいない、そんな気がしてきたんだ。」




※どうでもいいあとがき

このあとベテラントレーナーは次のプランの資料集めに出かけますが、取り残されたアグネスデジタルはトレーナー室でキングのお宝を家捜ししました。

[ 2022/01/23 23:48 ] 雑感 独り言 | TB(0) | CM(-)

言い訳

前回更新から2ヶ月もすっ飛ばしちゃいました、年末の一番盛り上がる時期だったのにな。

おひさしぶりです、あけましておめでたうございます。TILTOWAITです。

夏場はどうしようもない状況だと以前から言ってましたけども、まさか年末にこのブログの更新を
できなくなってしまう様になるとは自分でも考えてませんでしたからねぇ。
まぁ、夏場とは全然違う意味で更新できなくなっちゃってたんだけどさ。

できることなら、ブランク空けても何事もなかったかのように「しんどかったわー」とか言って
戻ってこれたら良かったんだけど。
これだけ間隔空けて音沙汰ナシのままってのもアレかなと、今回の更新をしてるワケです。

正直に言うと、話すのに気が引ける理由のせいで、今まで更新してませんでした。
年末と言えば競馬的にも楽しい時期だし、巷ではクリスマスやお正月を待ち望む時期。
皆が楽しみにしている時期に、「こんな話をするのは良くない」と黙っていました。
怖がらせるような話し方しちゃってますけど、私含め弟子、そして愛猫のりくちゃんに変わりは
ありませんので安心してください。
いや、私に異変が起きちゃってるから更新できなかったのか。


競馬の予想が、できなくなっちゃいました。


物理的な理由ではなく、精神的な話ですよ。ある出来事を境に、どうも競馬の予想に回せるはずの
思考回路が働かなくなってしまったんです。
で、時間が経てば元通りになるだろうと思っていたんですけど、未だに上手くできなくって。
今回はその理由を言ってしまおうという更新です。
とても、イヤな理由です。


昨年の11月末頃、私の友人が自らの手で命を絶ってしまいました。
当たり前ですけど、それ以上の詳しいことは言えませんが、それが理由です。
あれ以来、頭の中で考えをまとめるのがヘタクソになってしまったんです。


まったく、なんて時期になんてことしてくれるんだよ。時期云々じゃないけども。
殺し直してやるから一回戻ってこいと言いたくなりました。


ここに限らず、そのショックは色んなところに影響してしまいました。
仕事でもろくに頭が回らない、そのことばかり考えてしまうのでボーッとしてしまう時間が多くなり、
色々な人に迷惑もかけてしまいました。特に弟子ちゃんには負担をかけてしまった。気を使わせて
しまったことが凄く多かった。
で、仕事では無理をしてでも頭を使わなきゃならないし、そうなると一日のグッタリ感がこれまでの
何倍も襲ってくるし、なかなかのポンコツ具合を周囲に見せつけてしまいました。

ここでこんな話するのもどうかと思ったんです、またここでこんな話をするとぶり返してしまうかも
しれない。ようやくツイッターなんかでおちゃらけられる様になったけど、ふりだしに戻ってしまう
かもしれない。
でも、言ってしまった方がスッキリしちゃうかもしれないし、とりあえず状況は伝えるべきだと思い、
今回お話させて頂きました。

決してブログや競馬がイヤになったワケではありません。
今でも馬券はちょこまかと買ってます。
馬券買ってるってことは予想できるってことじゃないか、と思われるかもしれませんが、未だに予想を
しようとすると固まってしまうんです。
馬券を買うと言っても、今の私が買ってるのは単純に応援馬券。好きな馬、応援したい騎手達を出馬表に
見つけては単複なんかの馬券を一点買うとか、そういうことばかりしてます。
競馬を見るのは相変わらず楽しいんですよね。

だから自分でもかなりショックなんです、今の自分が。
昨年末の兵庫ゴールドトロフィー、道営組は輸送できずに取り消しになっちゃったけれど、あの
レースの出馬表を見たときには「これは予想が楽しそうなレースだ」って思ったんです。
このレースの前にはここで予想をやろうと思ってたんだけど、そう思ったレースでもいざ予想を
しようとしたら頭がフリーズしちゃったんだから。
これまでは考えようとしなくたって勝手に出馬表見れば屁理屈が沸いてきたのに、今では考えようと
しても予想がまとまらない。決められないし理由も思い浮かばない。

このブログは当たるか当たらないか以前に、そういう理由で大喜利やってるような場所だったでしょ。
それができないのでは当然、更新なんてできるわけもなく今に至っています。

年末の浦和ゴールドカップのソルテ復活には嬉し涙も流したし、中山大障害の新旧王者対決には
心を震わされ、有馬記念のキタサンブラック&東京大賞典のコパノリッキーが飾った有終の美には
心からの拍手を贈った。
そんな大好きな競馬の、一番の楽しみとも言える予想を「やらなければ」と思ってもできない
状況は本当にキツい。だから、思いっきり単純な応援をし続けています。ここで無理に予想を
組み立てようとして悩んだら、競馬予想がつらくなっちゃうかもしれないから。

日曜日には大好きなヒットくんが日経新春杯で10歳初戦を迎えます。
できればこのレースだっていつものノリで、勝てる理由をコジ付けして楽しく話をしたかった。
でも、まだ無理みたい。ただただ「頑張ってほしい」しか出てこないや。
弟子は「だこーはいつも58kgだったのに、ヒットくん56kgはズルい!!」って言ってるけど。

でも、惰性でこのまま予想できなくなっちゃうのは私自身がイヤです。
楽しいものは楽しいし、好きなものは好き。自分にとって競馬とはそういうものだと解って
ます。できることはちょっとずつ感覚を取り戻していくぐらいしかないのかな。
ただ、やっぱり無理矢理にはやらない方がいいかもね。
時間が自分の「予想してぇ」って欲求を復活させてくれるのを待っている、そんな感じです。
一応ツイッターのテンションは徐々に取り戻しつつあるので、それがリハビリにでもなれば
いいかな。


年明け早々にネガティヴな話を聞かせちゃってごめんなさい。
とりあえず、このブログはそのまま続けるつもりです。
で、この件に関しては励まされようが何されようがチクチクしてしまいそうなので、次回の
更新まではコメント欄を閉じさせて頂くことにしました。重ね重ね身勝手で申し訳ない。
暗い話の言いっ放しジャーマンスープレックスを食らったとでも思ってください。


日曜日は元気なヒットくんが見れるといいな。
では、今回はこの辺で。次回更新、アテにせず待って頂けると幸いです。




「悪い見本」管理人:TILTOWAIT

[ 2018/01/12 23:31 ] 雑感 独り言 | TB(-) | CM(-)

覚悟

彼がレースに出走登録をすると、毎回の様に祈らなければならない。
ここ最近は、その祈りは全く届かなかったどころか、彼にとって不遇な状況にしかならなかった。

正直言って辛かったわー・・・
スマホでさ、馬番が発表された出馬表を確認するでしょ。上から順に1枠から並んでるでしょ。
スクロールしても出てこないんだよ、彼の名前が全然。
そして天気。もう枠順も天気も悪いとなると絶望感しかない。出走日の天気もここ最近は曖昧で、
蓋を開けてみればレースまでに馬場が乾いてないとか、レース直前に雨に降られたりとか。
好走条件がこれだけ絞られてる彼を見守る者として、8歳以降の彼を待ち受ける状況が最早イジメに
すら感じられたものだ。

鞍上、馬の状態、そして出走する競馬場は管理陣営で選び、パーツを組み合わせることができる。
でも彼にとって一番大事な要素は、偶発的に決まる枠と馬場。
だからこそなんだけど、2年前の有馬記念。

「なんでここで1枠2番とか引いちゃうかなぁ!?」

・・・暮れの中山、決して高速とは言えない力の要る芝の状態、そして直線に立ちはだかる急坂。
要は、陣営としてはダメ元でのレース選択になるのが、彼にとっての有馬記念。
最初から彼の不得意が顔を揃えた環境下なんだよね、このレース。そこで1枠って君ねぇ・・・
幸い雨には襲われなかったし、割といい位置で直線を向くことができたけれど坂登りで他馬にどんどん
抜かされる結果。大体ねぇ、彼の中山成績知ってる?5回走って全部2ケタですよ?

内枠巧者というのは周知の事実だけど、それと併せて覚えておきたいのが平坦巧者でもあるってこと。
得意な競馬場、得意な馬場、得意な枠。それがあるってことは裏返せば、そうじゃなきゃダメってことだ。
どう考えても選り好みが激しすぎるだろ。他の馬はこんなにワガママ言わないんだよ。


もうあの京都大賞典から4年が経つんだね。


その前から、私は彼のことを「強い馬だ」と言い続けてきた。あの京都大賞典の後はゼンノロブロイの
様に秋のG1三連戦をグランドスラムじゃー
とはしゃいだものです。
その翌々年の目黒記念、初めての小牧騎手とのコンビ。ダービーデイの府中最終、内を縫う様に突き抜けた
彼の姿には本当に元気がもらえた。ここでも言ったけど、あの時はブログをやめることを本気で考えてた
時期でさ。ずっと応援していた彼の勝利には、逆に応援された気になっちゃって。
あの時はね、本当に涙が出たんだよ。うれしくて。
結局まだG1は勝ててないままだけど、あの頃の彼は応援してて楽しかった。


今はね、結構辛いよ。さっき言った枠運や天気運の無さもそうだけど、もう「強かった」っていう過去形に
せざるを得ないのかな、そんな風に思ってしまう結果が続き過ぎた。

でも、ここに関して私が考えてること、多分当たってると思うんだよね。
もう9歳も終わる。最近は2桁の着順ばかりだ。何故引退という判断にならないんだ?
それは、ずっと彼を見てきた陣営、そしてファンならば解ると思う。


諦めきれないんだよ、この運の無い枠と馬場続きでは。


彼の出るレースで予想しているときに「もしや」と思ったことが何度もある。スマホの出馬表を
スクロールして、下の方に現れた彼の名にガックリしていたのは私だけじゃない。多分陣営も枠番を
聞いてはガックリしていただろう。
枠と天気予報に陣営のモチベーションも左右されていたと思う。

悪い言い方だけど、その時点でレースを捨てていたという可能性、無くはないんじゃないか?
9歳ではそんなことも言ってられないだろう、レースを捨てるなんて場合ではないだろう、普通の馬の
ファンならそう考えるところだろうが、彼に限って言えば、欲しい条件が足りないだけでそうなっても
全然おかしくないんだよな。
カードが揃わない状態での勝負を徹底的に逃げてきた、そんな見え方もできてしまう。


そして、今年の京都大賞典。4年前に制した舞台に、完璧とは言えないまでも欲しいカードが揃った。
いや、揃ってしまったと言っていいだろう。


土曜まで降っていた雨のせいで渋った京都の馬場は日曜に乾いた。これが日曜のレースなら水気が残って
しまっていたかもしれないが、天気がいたずらしなければ月曜はより乾いた馬場で迎えられる。
珍しく日程と天気が彼に味方したんだ。
そして、最大の問題となる枠。あの有馬記念以降、彼は9番よりも小さい数字を引き当てられなかった。
今回彼が収まる枠は、4枠6番。
できればもっと小さい数字が良かった、しかしこの数字は陣営やファンにとって「いける」と思わせて
くれるに充分なものだろう。何故なら、その彼の背には小牧太が居るのだから。
何人もの騎手を背にしてきたが、彼の手綱を誰に任せたいかと問われたら真っ先にその名を言うだろう。
小牧騎手ならば9番枠まではなんとか捌ける。昨年の目黒記念では10番枠の彼で一度は先頭に立ったが、
外のマリアライト、クリプトグラムのキャロット2頭のしぶとい伸びに屈してしまった。
とにかく内に入れることにかけて、彼のハンドリングを任せて小牧騎手ほど心強い男はいない。それが故に
枠が外過ぎるとアッサリ引いてしまう部分もあった様に思える。それこそ、レースを捨てているんじゃないか
と私に思わせたのもこのコンビだったりする。この枠なら、小牧騎手はレースを捨てない。

直線が平坦な京都、開幕週の素軽い良馬場、欲しかった内側の枠、乗ってほしかった騎手。
最近の彼に無かった運が、溜め込まれて放出されたような状況。
カードが揃ってしまった。


・・・これでもう、言い訳はできないということだ。


もちろん、彼を応援し続けてきた私にとっても、これほど期待できる状況は久々なんだよね。
まず鞍上小牧がアナウンスされた時点で軽くガッツポーズしちゃったもん。
このローテーションも4年前と同じで縁起がいい。11頭立ての宝塚記念でシンガリ負けした後に、この
レースでゴールドシップらを打ち破ったんだよ。その時とは年齢が4つも違うけどさ。
秋初戦とは言え先の本番では相手もより強くなるだろう、だとしたら彼にとって、ここが本番なのでは?

実際そうだと思う。ここで、この状況で大敗したらもう「次は」とは言えないだろう。

かつてトウカイトリックが10歳でステイヤーズSを制し、南関でフジノウェーブが11歳で東京スプリング
盃の4連覇を達成した。でも彼はちょっと同じ括りにはできない。そういう老練さが無いんだよなぁ。

実は私自身、彼は衰えてきてしまっていると感じている。
外枠でレース捨ててるとしたら、最近のレースはノーカンと見れるのでは?そう言われるかもしれない。
実は私が彼の衰えを感じてしまったのが、昨年の京都大賞典だったりするんだよ。レース回顧を見れば
解ってもらえると思う。
確かに去年のこのレースでも不運なことにピンク枠。でも10頭立ての9番ならば捌きやすいハズだと予想し、
それに応えてくれるかの様に小牧騎手は見事な判断でインの6番手を取ってくれた。
先頭からもそこまで差のないポジション、これで直線を向けば彼の末脚の前にキタサンブラックだって
成す術もなく交わされるだろうと。
結果は5着だった。8歳なのにキタサンブラックからコンマ4秒差で掲示板確保ならば褒められたものだろう、
そういう声も多かったが、そんな中で私は落胆していたんだ。
ペースが上がった時に、前について行けなかったんだよ。
結局のところ、あのレースでは5着と言っても先に出たアクションスターをぎりぎり鼻差捕らえてのもの。
スローで前の脚色が鈍らず、一斉スパートになった時にあの反応では厳しい。ゴール前の100mくらいでは
いい脚になってるんだけどさ。

今年の状況としては、キタサンブラックみたいな横綱級は居ないし、去年よりも内側だし、馬場も昨年と
同様に軽い馬場になるんだろうなと想定すると希望は持てる。
そんな希望が持ててしまうだけに、結果が怖い。


このメンバー、この状況で大敗を喫してしまう様なら、もう諦めた方がいいのかもしれない。


私がそんな事を考えてもしょうがないんだけど、やっぱりそういうイメージをしてしまうと苦しいよ。
強かった彼の弱々しい姿はできれば見たくない。その言い訳が今まではできたけれど、このレースでは
それができない。
もちろん、ここならって信じて全力で応援するさ。それでもシビアな考えも生まれてしまう。
彼のことが大好きだし、希望もまだ持ってるから、逆の場合のネガティブが不安を駆り立てるんだ。

高齢な競走馬に対して向けられるのは、基本、暖かい声援が多い。
でも厳しい意見も多く目に付く。彼に対してもそうだ。

「引退させてやれ」
「まだ走っていたのか」
「もう無理でしょう」
「枠の無駄」

これを単に心無い言葉とするわけにはいかない、彼に関しては特にそうだからだ。そう言われて当然の
成績を近走で残してしまっている。得意条件が云々と反論することはできない。
ただ、このレースが終わるまでそう言い放つのは待ってくれ。その誰でも解る正論が痛いんだ。
彼には、その誰でも解る正論を跳ね返してほしい。


そしてもしも、いや、多分勝ってくれると思うけど。
この京都大賞典を彼が制したならば。
ここを「有終の美」としてあげてもいいのではなかろうか。


オーナー、陣営の判断に任せることになるけど、私はその結末でいいと思うんだ。
確かにここを勝てるようなら天皇賞も見える。しかしまた条件が揃うか?彼はここが賭けになってしまう。
G1を勝つところを見たいって気持ちは未だに持ってるけれど、ここを勝てたらそれで充分だよ、私は。

どんな結果が待ち受けているかは終わってみないと解らないけれど、
私の様な彼のファンにとっては「覚悟」が必要な一戦になるだろう。

改めて出走メンバーを見ると一筋縄ではいかない。まず、内枠ならばと言ったところで本当に彼に求め
られるのが「好位の内ラチ沿いに無理なく取り付く」こと。
そう考えると、彼の内側に居る馬が攻略対象になってくる。厄介なのがサウンズオブアースだろう。この
馬が2番枠で控えるかどうか。控えるパターンで来るのであればこの馬より前のラチ沿いを取りたい。
恐らくシュヴァルグラン、スマートレイアーはある程度前目に位置しようとするハズ。スローが予測される
メンバーでこの2頭は下げないだろう。読めないのがミッキーロケットだ、連れて前に行ってくれれば助かる
ところだけど、控えて彼と位置がカブる様になると内に入れなくなってしまうかもしれない。
内にばかり気を取られてもいけない。すぐ外に居るフェイムゲーム、コイツが最高に厄介なのだ。この馬に
外からカブらされてインの前を取られたらレースはほぼ終了と言っていい。まず出所を失う。
内側に有力馬が揃ったことで外側の馬達が牽制を後目に奇策に走る可能性もある。内目の馬達が揃って後方に
なってしまうパターンになると最悪。カレンミロティックとハッピーモーメント辺りが外枠勢を連れてインに
カブせる様に先行してきたら、彼のポジションは相当後方になってしまう。

欲しいカードが揃ったところで、やはり障壁の多いレースになるだろうと予測できる。
あとは彼自身の気力と体力、そして小牧騎手の手綱に託すしかない。そう、小牧太に。


どうせ騎乗停止で天皇賞には騎乗できないんだから
ここで天皇賞の分まで出し尽くしてもらうしかない。

(何してくれてんだよ、おじき…それもあってここが「有終の美」でもいいって言ってるんだぞ!)


彼に対して、こうやって一人語りで思いを綴るなんてことになるとは思わなかったな。
彼が4歳の頃から惚れ込んで応援し続けてるけど、まさか重賞連続出走記録なんてものを作ることに
なるとは想像もしてなかったよ。多分現役馬の中では最も多くの騎手を乗せて走ったことのある馬にも
なるんじゃないかな?
本当に現時点でこれだけ怪我もなく長く走り続けてこれただけで凄い。
でも、多分もうすぐ引退の時はやってくるんだろうな。

断言できる。馬券とか抜きに、今まで競馬見てきた中で一番好きな馬だよ。
今までで一番、好きになれて良かった馬だ。

勝手に今回を最後のチャンスっぽく話してしまったけど、とにかく月曜日は彼を全力で応援します。
できることなら、もう一度喜びの涙を流したいな。
では、最後に直球をブン投げさせていただきます・・・



勝っておしまいなさい、
ヒットくん!!!!!





「悪い見本」管理人:TILTOWAIT



[ 2017/10/09 01:03 ] 雑感 独り言 | TB(0) | CM(2)

書き置き

久々に更新したらいきなりとんでもないことが起きてしまいました

当方、しばらく立ち直れそうにありません

コイツのせいです

zakuro.jpg


詳しくは前記事のコメント欄を見るといいでしょう

とにかくショックです、立ち直れないかもしれません

もう更新できないかもしれません
































とりあえず、セックスしてきます




「悪い見本」管理人:TILTOWAIT

[ 2017/09/13 22:04 ] 雑感 独り言 | TB(0) | CM(4)

おしらせ

えー、どうも。管理人のTILTOWAITです。

皐月賞&中山グランドジャンプでしたねぇ。競馬的にはハズせない週末でございました。

できることなら予想したかったですよ、ここをスッ飛ばす競馬ブログはなかなかございません。




ツイッターでモソッと呟きましたけど、ちょっと更新できなくなりそうです。今後も。




別にね、飽きたとか、そういうワケじゃないんですよ。

競馬はダイスキです。

勝てなくても楽しいものです、ダイスキです。

まぁ、勝てた方が楽しいのは間違いありませんけどね。


こう見えて先週は地方でヤラかしてますし。
トウケイタイガーはダイスキです。



で、ブログもダイスキです。

自分の意見でツッコミ食らいながらも当たらない予想して、それで玉砕して。

それでいいんですよね、むしろ「どうだ」なんて言うつもりないんだから。

むしろを重ねるならば、人と違うコト言って、どんだけ説得力持たせられるかが面白い部分ですよ。

それで結果が伴えばいいんだけど、真逆は真逆でそっちの方が面白がってもらえるし、

なんか自分でもヘタこいた方が後に繋がるし、

当てると逆に「アレ?やっちゃった?」って思っちゃうし。



・・・なんか、流れが最終回みたいになってますけど、そうじゃございません。



ただし、これが最後の更新になる可能性はあります。



ぶっちゃけますと仕事の都合です。

競馬予想もブログも時間が必要なものです、予想をブログにするとなると尚更。

その時間が削られる状況に陥ってしまいました。

あんまり詳しくは言えないけどねぇ・・・


某国の有事に対して携わっている
企業に関わってる方と仕事することに
なっちゃいましてねぇ・・・



お察しいただけたかな?

つまり、そういうことです。その辺の問題が盛り上がっちゃってるじゃないですか、盛り上がっている内は

結構お仕事が満載になっちゃったんですね。

色々なカラミがあるんですよー、あの問題。

輸入出でしょ、催し物でしょ、旅行関係でしょ、旅行関係でしょ、旅行関係でしょ、旅行関係でしょ・・・




でっけぇ船でのセレブの旅行関係でしょ・・・




おっと、ここまでにしとこう。

とりあえずそういうことですよ、あの件で慌ててるのは政府や国防だけじゃないんです。

民間企業だって大変なのだ、煽りを食ってるし楽観を断言できないんだから対策しなくちゃならない。

まぁ、安心を断言してる人も居ますし、私もなんだかんだ言ったって何も起きないんじゃないのって確率の方が

高いと思ってますし、ミサイル発射失敗だって「わざと」だと思ってます。

でも決めつける根拠も権限もない。

仮説を作れば変な話、G1開催が続く競馬場だって怖い場所になっちゃう。

そうなると、なんかしなくちゃならないのですよ。



メッチャ愚痴ですよ、コレ。



もしも、もしも有事が発生した場合は最終回になっちゃうかもしれません。それは多分、JRAだって同様だよねぇ。

有事が無くても多分、ゴールデンウィーク一杯までは確実にキツイです。

ただ、慎重を要している人達をバカにしちゃいけませんよ。

これって過去の軍事事例とかじゃなくて、東日本大震災を経験したからこその「想定外」への怯えなんです。

当然だと思います。怖いものは怖い。可能性はゼロじゃなければ可能性アリになる。そういう話を、

・・・


やめときましょう!!



とりあえずまぁ、そういうことで。


できれば天皇賞やかしわ記念の予想を楽しくやりたいな。

確実にそれができる日を迎えられればいいなって思ってます。バカですね、我ながら。

やっぱり私用だと競馬が結構大きな楽しみになっちゃうんだもんね。



皆さんも、我々が何事も無かったかの様にアホみたいな予想をまき散らす日を望んで頂ければと思います。



俺ももうヤダ、こんな状況!!





[ 2017/04/17 03:24 ] 雑感 独り言 | TB(0) | CM(12)