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競馬怪談 「喫煙所の主」

俺「なんか週末は寒かったなぁ、雪で福島競馬中止になっちゃってたし。」
弟子「でもその前は春って感じでポカポカしてましたよ。
俺「これからはあったかくなっていくんだろーな。」
弟「この前は汗ばむくらいの日もありましたからね。」

俺「お前の汗なら売り物になるかもしれない。」
弟「気持ち悪いよ!!」

俺「売れる物なら売った方がいいぞぉ。」
弟「この貪欲脳め・・・」
俺「春ってのはあっという間に通り過ぎていくからな、もうすぐに初夏ってヤツになっちまう。」
弟「5月になると初夏って感じですよね。」
俺「初夏って言うくらいだから、もう春っつーより夏になるんだな。」
弟「気が早くないかな、それは・・・」

俺「夏だから怪談話してやんよ。」
弟「強引にも程があるってば!!」


俺「最近やってなかったからなー。結構ネタが溜まってんだぞ、昨年に色々聞ける環境に身を置いたから。」
弟「怪談系の仕事もうやめようよ・・・」
俺「企画書や台本とかよりも好きなんだけどなー。」
弟「コワイのヤダよぉ・・・」
俺「前に二度程やったけどさ、明らかに読者さんが減ったよね、あの時。」
弟「やんない方がいいじゃん・・・」
俺「二回目のヤツな。フツーに怖い話になっちゃったもんだから。」
弟「ヤダ。聞きたくない。」
俺「俺だって学習能力くらいあるよー、競馬好きな紳士はコワイ話がキライだと学びました。」
弟「だからやるなよぉ・・・」
俺「怖くなけりゃイイんだろ?」
弟「・・・」
俺「府中の第3コーナーにある大ケヤキの話とかは掘り下げると結構怖い話になりそうなんだけど。」
弟「怖くしなくていいよ!!」
俺「コレも聞いた話にアレンジ加えたヤツだから、ホントかどうかは怪しいんだけど・・・」


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「喫煙所の主」


 私のホームであるS場外は新しくて綺麗な場所だ。

 週末が訪れると大勢の競馬ファンで賑わうが、他の場外に比べ人口密度は低い様に思える。あの、競馬場や場外にありがちな汚いイメージは皆無であり、むしろそういう場所としては異質なのかもしれないが、この清潔感が私は好きだ。
 私が競馬をやり始めてS場外に通いだしてからまだ日は浅い。清潔感のある環境とは言え平均の客層はやはり40~50代の男性が多く、20代の私はその中では若輩者に映る。友人と来たこともあるけど基本はいつも一人で行く。一人の方が気が楽で好きだ。
 一階の売店でお気に入りの新聞とお気に入りの「勝ち馬」って書いてあるライターを購入し、お気に入りの場所に行く。人には大体お気に入りの場所というのがある、誰だってそうだろう。私にとってのお気に入りの場所はS場外3階フロアの奥に位置する喫煙所。ここで予想して前に万馬券を当てているんだ、ここが自分にとって一番落ち着くし運気もいい場所。もうそういうイメージが自分にできてしまっている。自分だけじゃなく、そういうことを大事にする人も多いだろう。
 それが証拠に、大体そこで週末に出会うのは同じ顔ぶれだ。

 競馬をやってるおじさん達は人懐こい人が多いと思う。若いのに一人で来ていつも予想をしていた私が物珍しいのか、必ず声をかけてくる。一番最初に声をかけられた時はうっとおしいぐらいに思っていたのだが、通うにつれすっかり顔なじみになり、その喫煙所はすっかり馴染みの者同士が週末に集う場所になっていた。だから初めてそこに来た人というのはなんとなくヨソ者感を感じてしまうのか、すぐに移動してしまう。そういうのが嫌いな人も居るだろう、自分もそのクチだと思っていたのだが、通ってる内にその喫煙所が一番居心地の良い場所になっていた。
 もう競馬をしに行くというよりは、「週末はそこに行かなければいけない」という感じになっていたのかもしれない。

 各々の個性も知り合ってすぐに解る。Mさんはパドック映像で独り言をブツブツとつぶやき、Tさんは惜しいと大騒ぎをし、Sさんはしょっちゅう買い目を間違えて係員とモメて、Nさんは新聞を全部買って予想し締め切られる。まぁ、なんか抜けてるところだけやたら目立つが、彼らのイイところはヤジを飛ばさないところだ。居心地がイイ理由はそこも関係しているかもしれない、当たらなかった時に潔いのだ。そして何より楽しそうだ、競馬というよりもその空間を楽しみに来ているのではないか、そんな感じすらある。
 変な勘ぐりをしてしまえば、ここに集まって顔見知りとぎゃあぎゃあ言いながら見る競馬が、彼らにとって数少ない楽しみなのではないか、そういう風に考えられる。よくよく考えたら自分もそうなのだ。
 面白いのは互いが他人の予想を否定しないところ。これとヤジを飛ばさないのがこの空間の暗黙のルール、私がここに来る様になった時、既にこのルールは出来上がっていた。話を聞いたところ本当に「そうしよう」と決められた約束なのだそうで、いつの間にかそうなっていたのではないとの事。
 この喫煙所には主的な存在がいる。周りからはヒロさんと呼ばれている50代後半ぐらいの男性だ。喫煙所の片隅の壁に寄りかかりながら、新聞を睨みつけ物静かに予想をするのが彼のスタイル。パッと見はなかなかの強面に見えるが話してみると柔和で落ち着きのある人だ。このヒロさんが野次や文句が嫌いで、ある時に物知り顔な小うるさい男が人の予想に対し「あー、その馬ダメだよ。来ない来ない。」と笑った際にヒロさんが「来ないってことは無いんだがな」とムッスリ顔でつぶやいた。蓋を開けてみれば、レースはその男が来ないと言っていた馬の圧勝。男が赤っ恥をかいたのと同時に、周囲は何かスッキリとしたものを感じた。それ以来、ここの仲間内では他人の予想に口は出しても否定はナシと取り決めたのだそうだ。

 ヒロさんは人の予想に口を出さないが、「ヒロさん何狙うの」とよく聞かれる。どうやら予想は非常に上手らしい。でも彼は必ず照れくさそうに笑いながらこう答える。

 「教えねぇよ。俺のルールなんだ。」

 その度に周りからは「ケチなんだもんなぁ~」と言われ「しょうがねぇだろ」と答える。ここに来ると一日に二回は見る光景だ。

 ある開催日、私はここで万馬券を取った。「よしっ!!取った!!」と声をあげると、周りのおじさん達が「おー」と言いながら寄ってくる。その馬券を見せると周りはギョッとした顔で「お前よくこんな買い方できるな!?」と言ってくる。そう、その時の私の買い方は三連単を二点という極端に省エネな穴狙い。だからあまり当たらない。でも当たった時の気分の良さは格別で、それが私の楽しみ方だった。この時ばかりはヒロさんもどれどれといった感じで私の馬券を見に来たので得意げに馬券を披露した。するとヒロさんは「お前、相当楽しめてるな。そういう買い方いいな、割と好きだよ、そういうヤツ。」と私に言った。
 この言葉が正直この時はバカにされてる様に受け取れてしまった。お遊びだなって言われてるように思ってしまったのだ。確かに競馬は私にとって遊び以外の何者でもない、だが毎回予想は真剣にやっている。つまりは真剣に遊んでいる。「ヒロさんはどうなのさ?」とムスっとした感じで尋ねると、若干ひるんだ感じで「お、俺はこのレースはダメだった」と返ってきた。すると傍に居たTさんが「馬連のヒロさんと三連単の○○か、面白いもんだなぁ」と笑った。「ヒロさんじゃこのレース取れないだろうな」とTさんが言うと「カスリもしなかったよ」と苦笑い。それでもコンスタントに馬連を当てているヒロさんを、私はいつしか勝手にライバル視するようになっていた。
 
 ヒロさんのレース観戦スタイルは物静かだ、当てても少し喜ぶだけ。対してハズすと「参ったな」という表情の苦笑いを浮かべる。だから大きく勝ち負けしてる様には見えない。ちょっとした職人ぽくも見える。私もまたレース中は興奮を押し殺して声をあげたりはしない。購入金額も低いしハズす事には慣れてる為、当たらなくても「やれやれ」ぐらいで済ませる。ただし、当たった時は別だ。さっきの例の通り思わず声が出る。この見た目と馬券スタイルの対比が周りから見ても面白かったらしく、「喫煙所下克上だー、やれー○○!!」とか茶化されたりもした。私もヒロさんもうっとおしいとは思いつつ、その環境を楽しんではいたものの、私の中でも確かに「ヒロさんをギャフンと言わせてみたい」という気持ちが芽生えていた。

 しかし、Tさんがある時こんなコトを言った。ヒロさんが馬券を買いに喫煙所を出た時だ。


「ヒロさん、○○ともっと話がしたいんじゃないかなぁ?ホラ、あの人ああ見えてシャイだから。」
「なんだよそれ、気持ち悪いコト言うなぁ。」
「実はさ、ヒロさん五年前に事故で一人息子亡くしちゃってさ、ちょうど○○と同じくらいの歳なんだよ。」
「えー、そんな事があったの?」
「○○みたいに若いヤツがココに来るの珍しいからな、お前もヒロさんに優しくしてやってくれや。」
「そんな、息子代わりにされてもねぇ・・・」
 

 正直、死んでしまった息子の代わりみたいなものになってやれなんて言われて気分が良くなるワケがない、Tさんもデリカシー無いなぁなどと思いつつも、その情報は私の頭にしっかりとこびりついてしまった。馬券購入から戻って来たヒロさんをチラっと見ると、ヒロさんもそれに気づき「何?」と言う。「別に」とぶっきらぼうに答えるとTさんが「お前もシャイだなぁ」とクスクス笑う。

「俺の悪口かぁ?ヤメてくれよ、陰湿なコトされるとナイーブだから傷付いちゃうだろ。」
「ヒロさんナイーブなんだ。顔に似合わず。」
「あ、やっぱ俺の悪口言ってただろ、お前ら。」
「してないってば。ところでどんな馬券買ったの?」
「だからそれは教えないんだってば。」
 
 この会話をしている時のヒロさんは本当に楽しそうだった。Tさんの言う通り、ヒロさんは内気なところがある。だからこそ顔見知りが集まるこの空間が大事なんだろう。でも私の中に生まれたライバル視の意識は変わらないままだ。やっぱりこの人に馬券で勝ちたい。ヒロさんが私と仲良くしようとしてるかしてないかよりも、自分の中ではそちらの意識の方が強かった。


 しばらくしたある日の土曜日の午後。いつも通り喫煙所に行くと、そこにはヒロさんしか居なかった。

「あれ?今日ヒロさんだけ?」
「あー、皆ヒマじゃねぇんだろ。俺はヒマだから居るんだよ。」
「そんなコト言われたら、俺もヒロさんもグータラの暇人になっちゃうじゃん。」

 ライバル心はあっても、会話数は以前よりも増えた。最初にここに来た時から比べれば、お互い大分打ち解けている。ただ、この日にヒロさんはヤケに口数が多かった。

「相変わらず三連単狙ってるのか?面白いヤツだな。」
「当たらないけどね、アレ以来。」
「当てようとしてるんだろ、ならいいじゃねーか。」

 ふと、以前ヒロさんに対して敵意を持ってしまった時のコトを思い出してしまった。やはりヒロさんから見たら私の買い方はお遊びに見えているのだろう。

「あーそうだよ。真っ剣に当てようとしてるよ。」

 ちょっとムキになった感じでそう答えてしまったが、それに対してヒロさんはこう言った。

「一番自分が楽しめる買い方を、ずっと続けられるってのはいいもんだな。人と違う予想が立てられるのもいい。
 本当に競馬が好きなんだな、○○は。」

 アレ、と思った。自分が勝手に思っていたコトがこの時勘違いだと解った。そういう目でこの人は私のことを見ていたんだと思うと、何やら自分で自分が恥ずかしくなってきた。

「次の中山9R、予想し合おうか?」
「予想し合う?珍しいコト言うじゃん。いつも人に予想見せないのに。」
「今日は特別だよ、うるさい外野も居ないしな。」
「なんかキモチワルイ。」
「じゃけんにするなって。」

 不思議なコトもあるものだ、古参のおじさん達もヒロさんがどんな風な予想をしているのか知らないのに、その人が今ここでどんな予想をするのか教えてくれると言っている。
 缶コーヒーをすすりながら、ヒロさんはいつも通り折りたたんだ新聞を睨みつける。私はテーブルに新聞を広げて予想する。この馬が逃げて、大体ペースがこうなって、末脚が効くのはこの馬で・・・頭をガシガシと掻きながら新聞に赤鉛筆を走らせる。

「よし決めた。」

 ヒロさんはいつも喫煙所を出てマークシートを書くが、今日はここで書いてくれた。馬連を6点、買い方は軸とかが決まってる感じではなくバラバラ。ボックスでもない。一点ごとに賭け金を変え、下は100円、上は500円といった感じだけど、決してオッズが低い方に厚くしてるというワケでもない。

「凄い買い方なんだな・・・どうしてこんな選び方になるの?」
「なんとなくだ。」

 ポカンとしてしまった。

「何それ、ズルイ。」
「本当になんとなくなんだって!普段聞かれて答えないのは説明ができないからだよ!」

 恥ずかしそうに笑うヒロさん。よく当たってる人の予想の正体は、新聞読んでなんとなく決めていただけというお粗末な解答に、ヒザの力がプシュっと抜ける。
 私は三連単をいつもの買い方。展開と近走成績でこの三頭の争いになるという判断だとヒロさんに言うと「しっかり理論持ってやれてんだな」と感心した様子。参ったな、なんとなくで当ててる人に当たらない三連単を納得されてしまった。

 そしてそのレース、私はカスリもせず、ヒロさんは40倍くらいの馬連300円を当てた。

「へっへっへ~♪」

 得意気になんとなく馬券をヒラヒラさせる。こんなヒロさんは今まで見た事が無いと同時に先程消えかけた敵意がまた蘇ってきた。なんとなくで勝っている人に惨敗してるようでは・・・

「ちっくしょー・・・」
「そんな悔しがるなよ、コーヒーおごったるわ。」

 当り馬券を換金しに行きがてら、自販機でコーヒーを買ってヒロさんが戻って来た。それにしても不思議なことに今日はこの喫煙所に誰も来ない、本当にヒロさんと自分しか居ない。変な日だなと思いつつ、次のレースを予想し始める。

「○○は息子に似てるんだよな。ウチの息子、バイクで転んで死んじまったんだけどさ。」
「・・・」
「だから、かまいたくなっちゃうんだよ。」

 急に前にTさんから聞いた一人息子の話をヒロさんがし始めた。

「息子と競馬やってる様な気がしちゃうんだよな。本来なら息子が競馬やってたら怒っちゃうだろうけど。」
「・・・自分のコト棚にあげて。それに何だか説教されてるみたいだ。」
「はは、悪いね。まぁ俺が息子のトコ行くのも時間の問題だけどな。」
「縁起でもねーよ、年寄りの自虐はみっともないよ。」
「手厳しいな。そーだ、タバコ一本交換しないか?たまには違う銘柄も吸ってみたいわ。」
「いいよ、あげるよ。ピースなんかキツくて吸えないし。」
「いや、ただでもらうのは流儀に反する。」
「Sさんなんかコソっと盗むんだよ。俺のタバコ。」
「盗っ人だらけだからなー。」

 私のラッキーストライクとヒロさんのピースを一本入れ替える。ヒロさんはラッキーストライクに火を付け、先程と同じ様になんとなく予想を始める。そこからはお互いカスリはすれど当たらず、その日の最終レースを迎えた。

「これにて打ち止め・・・っと。」
「ああ、結局今日もボウズだぁ・・・」
「どんな馬券買ったのさ?」
「これ。」

 私の予想はちょっと固く狙った三連単二点。それでもオッズは200倍見当を示していた。ヒロさんは相変わらずのしっちゃかめっちゃかな馬連を8点。しかし、ヒロさんは私の馬券を見てこう言った。

「これ来るかもな、気配がある。」
「どうせなんとなくでしょ?」
「なんとなくだ。」

 私が呆れ顔でため息をつくと、ヒロさんは照れくさそうに笑った。その表情はどこか寂しげに見えた。
 そして二人で喫煙所のモニターに映る最終レースを見た。最後の直線で私が選んだ三頭が競り合いながら後続を突き放す。これ、本当にもしかして・・・直線半ばでヒロさんが早々と「やったな」と言った。一着に固定していた一頭が堂々とライバルを競り負かす。後方からも追い込んで来る馬はいるが先頭争いをする三頭には届きそうもない。

 久々の絶叫と共に、私は三連単を最後の最後で当てることができた。

 「おめでとう!!」とヒロさんが笑った。私は久々の興奮に手を震わせた。これがいいんだ、やっぱりこういう当て方が一番自分にとって気持ちがいい。

「その顔が見たかったんだ、今日は来て良かった。」

 ヒロさんが拍手しながらそう言った。夕焼けの陽が差し込む喫煙所で缶コーヒーで祝杯を挙げる。私は相当うれしかったが平静を装うとするも、未だに震えが収まらない。「素直にその辺飛び跳ねてこいよ」とヒロさんが笑う。何だか恥ずかしくもあったが、単純に当てられたコトの喜びを大きく出さないように堪えるのに必死だった。
 大勢の観客の一喜一憂が場外を去っていく。私たちも喫煙所を後にする。場外の出口で、

「じゃあヒロさん、また明日!」

 そう言ってヒロさんと別れ意気揚々と帰路につく。今思えばあの時、ヒロさんは何だか困った顔をしていた。そんな風に思える。

 日曜、昨日と同じ様に喫煙所に行く。昨日とは違い、いつもの顔ぶれがそこに居た。ただ一つ違うことがある。
 ヒロさんが居ない。

「あれ、今日ヒロさん来てねーんだ。」
「ああ、そうか。お前知らないんだな。」
「何が?」


「ヒロさん、一昨日亡くなったんだよ。」


 ・・・何を言ってるんだ、昨日ココで一緒に競馬見てたんだぞ?そう言おうと思ったがTさんがこう続けた。

「昨日は通夜でな、俺ら近所だしここの付き合いもあったから行ってたんだよ。」

 混乱した。何が何だか解らない。じゃあ昨日ここに居たヒロさんは何だったんだ。

「心筋梗塞だってさ、あまりにも急だったから俺らも驚いたよ・・・」

 Tさんが苦い表情で話す。SさんもNさんも悲しげにしている、どうやらウソではない様だ。
 じゃあ何だ、昨日のヒロさんは幽霊か?この話は皆にするべきかしないべきか・・・

「お前も線香あげてきてやれよ。ヒロさんさ、お前が馬券当てた時の得意気な顔が好きだったんだ。結局あの時
 以来当てれなくてその瞬間見せてやれなかったんだから、謝ってこい。」

 Tさんの言葉にハッとした。そう言えば昨日ヒロさんが言っていた、「今日は来て良かった」と。すると何か、私の喜ぶ姿をわざわざ見に来たというのか。もしかしてそれを見たいが為に私に馬券をプレゼントしてくれたというのか。
 悔しいやら悲しいやら腹が立つやら情けないやら恥ずかしいやら、様々な感情が一気に押し寄せてくる。結局昨日の自分はヒロさんの幽霊に遊ばれてたのだろうか、昨日の最終レースで買った馬券に「来る気配がする」と言ったのは、当たることが解っていたからだろうか。私を息子と見立てて最後に戯れることができたのだろうか。私はその役をしっかりと全うすることができたのだろうか。
 震える手でタバコに手を伸ばす。箱を開けると一本だけフィルターの白いタバコがあった。


 昨日、ヒロさんが入れ替えたピースだ。


 ヒロさんの形見を咥え、火を付ける。独特の香り、きついニコチンに思わずむせる。
 
「やっぱピースはキツいよ、ヒロさん・・・こんなの吸えないって・・・」

 そうして私は自分の泣き顔を必死にごまかした。


 今でも、その喫煙所ではヤジと予想批判は御法度となっており、ヒロさんのお気に入りだった壁際は誰の物でもなくヒロさんの場所として常連の間では大事に空けられている。そこに近づくと、「なんとなく」喫煙所の主はまだそこに居るような気配がする。 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

俺「おしまい。」
弟「・・・ふぐっ」

俺「ラーク吸うと体臭キツくなるらしいぞ。」
弟「余韻を大事にしてくれませんか!?」




※大ケヤキの話は自分で調べましょう



まぁ、とりあえずクリックすると喜びます

[ 2013/04/22 23:48 ] 競馬怪談 | TB(0) | CM(12)

久しぶりの怪談話だったなぁ~

私は好きですよ。

怪談というよりこの濃い長い文が!
もっと書いてくれ~(^^)

いや~ 実に面白い。
[ 2013/04/23 07:10 ] [ 編集 ]

こういう話好きです。

感動して、涙でそうになりましたv-409
[ 2013/04/23 11:59 ] [ 編集 ]

・・・・・体験してみてぇ

やだ。何このトキメキ感w
怪談で涼しくなるどころか、胸があつい・・

競馬やギャンブル、仕事でドス黒くなている心を洗い流すような感覚・・・・
でも嫌いじゃない。
いいなぁ~、俺もこう言う「俺、今、生きてる!!」って体験してみてぇ!!

しっかし、ピースはきっついよなぁ~
何であれ親父喫えてんだろ?まぁ実家は田舎だから周りは「わかば」「エコー」「ハイライト」
のコンボ
俺?マルボロとラークですけど?
[ 2013/04/23 14:24 ] [ 編集 ]

なんか。。。

やっぱり競馬っていいですねぇ♪

競馬やっててほんとによかったと思いました♪

でも、なんか怖いようなでも温まるお話ですね♪

こういえ話、また期待しています!!
[ 2013/04/23 16:15 ] [ 編集 ]

語り始めの前に府中の大ケヤキに触れてるってことは・・・

きっとこの後、知らずにヒロさんお気に入りの場所に侵入したものが謎の死を遂げたり、
喫煙所の場所移動するかと発言した職員が行方不明になったり、
喫煙所で暗黙ルールを破ったやつらが急に病死したりする、
続編の怪談話があるに違いないw
[ 2013/04/23 19:57 ] [ 編集 ]

怪談というかほんのり良い話のような。

長文は三度の飯より好物なので、また楽しみにしております~


んで明日の羽田盃。

出馬表何回も見たけど。

何で的場お父さんとピンクさんの出番が無いのーー!?

一気にやる気マイナスです。

二人(+オリィもね)の晴れ舞台見たかったなぁ…
[ 2013/04/23 22:45 ] [ 編集 ]

>saiさん

ええ、一部では評判がイイんです。しかし難点があります。


やると読者が減ってランキングが落ちます。
[ 2013/04/24 00:17 ] [ 編集 ]

>muraiさん

コメントありがとうございます!!
喜んで頂けて何よりです、たまにこういうのやるんですよ。
よかったらまた見に来てくださいね!!
[ 2013/04/24 00:19 ] [ 編集 ]

>ニコフさん

結構リアルで経験したら悲しいんじゃないかなーと思うぞ!!

ピースの香りは好きで、たまにライト吸いたくなる時があります。
赤ラーク吸ってると本当に体がクサくなるらしいです。
[ 2013/04/24 00:22 ] [ 編集 ]

>カタサンさん

色々な話があるもんですよ、そして色々な話が競馬場で聞けたりもします。
この話のある通り、競馬場のおっちゃんって話したがりなトコあると思うんよ。

大体のおっちゃんはエロい話が好き。
[ 2013/04/24 00:25 ] [ 編集 ]

>通りすがりの馬主さん

俺は台無しちゃんかwwwwww
[ 2013/04/24 00:26 ] [ 編集 ]

>ぽん太さん

フミオさんは停止食らってんじゃなかったっけ?
ミスターピンクはそもそもの騎乗数が少ない気がするなぁ。

オリィは大井に現れるのがかなりレアです。見つけてしまったら複勝を買わないと不幸になります。
[ 2013/04/24 00:30 ] [ 編集 ]
立札4

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