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尻尾を立てて

 台風がまた近づいている。
 先日の26号は日本に大きな爪痕を残した。あれからまだ一週間程度、連日伊豆大島の被害のニュースが流れる
さなか、もう次の台風が発生し、更に追い打ちをかけてくる。

 競馬ファンというのは呑気なものだ、こんな状況にあっても「台風が週末に来る」となれば「天皇賞は開催できるの
か」、「馬場がどんな状況になるか」などと考えてしまうのだから。競馬に全く興味が無い、世の大半の常識人から
見たら、その思考がどれだけ異常なのかという自覚はまず無いだろう。
 
 明日から降り出すであろうという予報を受け、なるべく外出を控えるべく仕事のついでに食料などを買い溜めする。
懐中電灯のチェックは26号が来る時にしてある、停電時の為のスマホの簡易充電器もこないだ買った。準備はして
おくに越したことはない。
 怖いのは交通だ、仕事も台風となればそれを予測したスケジュールにしたいが、ここがなかなか甘えられない。
一度立ってしまった予定はなかなか変えられない。大荒れになろうが槍が降ろうが、台風だから仕方無いにはなら
ないのだから社会ってのはキビしいものだ。自然の猛威を前に「そこに行けるか行けないか、そして帰ってこれる
のか」なんて心配をすることも少々ばかばかしい気はしないでもないが、そうしないとならない。

 今日の仕事は先程終えたところだ、デスクワークに飽き飽きしながら思いっ切り伸びをする。

「にんじんよりバナナがいいみたいです。」

 弟子のデスクは私と背中合わせになっている。伸びをした私に言ったのか、はたまた独り言なのか。大きくも小さく
もない声で彼女はそう言った。

 イスをくるりと回転させて「んー?」と彼女のデスクを見る。
 PCの画面には沢山の芦毛馬の写真が映し出されていた。
 PCをまじまじ見るフリをしながら弟子の真横に回り込み、その表情を見ると、泣いてるのか笑ってるのかよく解ら
ない複雑な表情をしていた。デスク脇に置かれたゴミ箱はティッシュで一杯になっている。どういう状況なのかはすぐ
理解できたものの、無言で一緒にPCを見た。やおら、ティッシュ箱に手を伸ばし弟子がズズッと鼻をかむ。「あー」と
言いながらまた画面を見てはスクロールさせる。


 ここまで言えば誰でも解るだろう。
 弟子はまだフジノウェーブとの別れから立ち直っていない。


 弟子が見ていたのは『南関魂』だ。華代子さんの真っ直ぐな想いと共に並べられたフジノウェーブの写真。
 彼女はこちらを見るでもなく、真剣にPCに映し出されたフジノウェーブの姿を愛おしそうに眺めては、感極まっては
ティッシュに手を伸ばしていた。
 まるで映画のエンドロールの様に、若かりし頃のまだ黒さの残る馬体の彼から、ついこの前の真っ白く美しい姿の
彼がスタッフクレジットの様に並ぶ。弟子は若い頃のフジノウェーブを知らないが、まるで昔からの友人、いや、尊敬
する人を見るような眼差しを一枚一枚の画像に向けていた。

 ・・・いつもここを読んで頂いてる方には申し訳ない。こんな状態で普段のノリの対談するのは無理だ。


「大丈夫ですか?」


 それはこっちのセリフだと言いたくなる様なことを、弟子が私に訪ねてくる。
 これはあれだ、オバケ屋敷で本当は怖いのに強がってるヤツが、連れに対して「怖くない?」って聞くのと同じ様な
モノだろう。ここで私が「大丈夫だよ」と答えれば、彼女は「無理しないで」と言い、自分の精神を安定させようとする
だろう。


「大丈夫なわけが無いだろ。まだ引きずってるわ。」


 私がそう答えると、彼女は意地悪そうに私にムっとした顔をした。図星だったのだろう。
 
「にんじんよりバナナなのね。」
「うん。バナナが大好きだって華代子さんが言ってる。」

 画面をスクロールさせると、そこには嬉しそうな顔でバナナを見つめるフジノウェーブのアップが映った。

「ね。」

 そう言うと彼女はまたティッシュで鼻をすする。これの繰り返しだ。
 
 日中の感じでは、そんなに引きずっている様には思えなかった。元々彼女は業務に関しては淡々とこなす方で、
あまり無駄話もしない。でも無口というわけでもない。今日も仕事に関して言えば淡々とこなしていたし、合間の休憩
では、

「台風どうなるのかな、天皇賞やれるんですかね?」
「お前も台風と言えばまず競馬か。すっかりバカの仲間入りだな。」

 などという、会話をしていた。
 競馬に関してのトラウマが今回の件で産まれたわけではなさそうだ。
 しかしながら、先日の弟子には驚かされた。まさか「お花を供えに行きたい」と言うとは思わなかったからだ。彼女を
競馬という遊びに巻き込んだのは私だが、フジノウェーブは彼女にとって本当に大切な存在になっていたのであろう。
 恐らくそれは、それまでの過去に類が無い程に。

 このブログが開始される前から我々は競馬を見ていた。その中で数々の別れも体験してきた。オグリキャップ、ゴル
トブリッツ、アドマイヤグルーヴ、エアグルーヴ、フミノイマージン、ジョワドヴィーヴル、トウカイテイオー・・・いずれも
悲しい別れだったが、『南関魂』からそのまま使わせてもらった仙人というニックネームまで付けて応援してきたフジノ
ウェーブは、なんとなく身近な感じに弟子に想われていたのだろう。先日の更新で弟子はこ言っている。


「東京スプリング盃が、今年一番感動したレースでした。」


 白毛馬よりも深みのある白銀とでも言える馬体が、馬群の中央を突き抜けた。11歳、同一重賞4連覇、快挙を成し
遂げた勇猛なる大井の名将は弟子にとってそれは凄まじい衝撃であり感動だったのだろう。実は私自身、今年を
振り返ってのベストレースを挙げるとすればこのレースになる。弟子にとっては「今年」と言うよりも「今まで」と言って
もいいくらいに思えていたのではないだろうか。
 私にとってもフジノウェーブはかけがえの無い存在だ。馬券云々ではなく、つい応援したくなってしまうだけの魅力と
親しみが彼にはあった。中央のスターホース達とは全く違うけど、とにかく彼は私たちにとっては大事なものだった。

 弟子は未だに、その大事な物が消えてしまったことに理解できていない。彼女の普段の競馬予想を見てもらえば
解るだろう、彼女は理由を求めるのがヘタだ。良く言えば選ぶ理由がまっすぐということになり、私の予想が屁理屈
だということにもなるが、結果から自分が納得できる理由を求め出すのもヘタだ。単純に今、納得できていない。
 「なんで」という気持ちが「なんで」のまま今日になってしまった。昨日ある程度納得できる様に説明したつもりだが、
何と言うか、行き場の無い気持ちが自分の中を延々と這いずり回っている様な感じなのだろう。

 PCの中では、フジノウェーブが穏やかな表情を浮かべ、こちらを見ている。
 それを見つめる彼女の表情は、いつの間にか昨日の様にくしゃくしゃになっていた。

 「なんで」という気持ちに蹂躙された弟子にできることは、悲しんで泣くことだけだった。フジノウェーブが残してくれた
思い出も、今となっては昨日の悲しみに埋め尽くされてしまったかの様に、弟子の心を蝕んでしまっているのだろう
か、しかしそれは大きな間違いだ。その思い出は大事にしなければならない。
 頭をポンと撫で、弟子にこう尋ねる。


「仙人様を好きになったこと、後悔してる?」


 ふと我に返った様に泣き止む。それまで洞穴の様だった目に、光が差す。


「そんなわけ、無いじゃないですか!!」


 憤る様に私にこう返してきた。それに対し私は失礼ながらも笑ってしまった。「なにがおかしいのさ!!」と言う彼女
に心底安心し、更に笑ってしまった。全くおかしくないから笑ってしまった。

 フジノウェーブに出会えて良かった。その気持ちがあるなら、とりあえずそれだけで充分だ。

 フジノウェーブとの別れは悲しい。フジノウェーブに限らず別れとは悲しいものだ。でも、それだけ弟子に想われて
いた彼が少し羨ましくもなった。今まで体験してきた死と、フジノウェーブの死は、こう言ってしまっては失礼なもの
かもしれないが、ただひたすら重みが違うのだろう。
 人というのは理由を求めたがる。誰かのせいにしたがる。様々な物を犯人にしたがる。しかしそれよりも大事なのは
やはり「想うということ」だろう。理由探しは想うからこそ、と言えばそれまでなのかもしれない。結果が確実に出ないと
いけない問題というのも山ほどあるが、ここで私と弟子が彼の死の理由を探ることにどんな意味があるのか。


 フジノウェーブの死という事実が覆るわけでも無いし、スッキリするわけでも無いじゃないか。
 人によってはそれは意味のあることなのかもしれないが、少なくとも私にそれを議論する意味は無い。
 議論より大事な、率直な想いだけがあればいいと、私は判断した。


 ・・・ここまで書いておいてなんだけど、改めてここまでの流れでも自分に対して失笑してしまう。
 もちろん、この文面も人に対して読んでもらう為に書いてるのだが、何故こんなに格好を付けようとしてしまうのだ
ろうか。華代子さんの様にストレートな表現ができない天邪鬼な自分にクスっとなってしまう。
 まわりくどい余計な文字をとっぱらってしまえば、言いたいことなんて大体一行になるのに。


「とにかく行って、仙人様に今までの想いを伝えようよ。大事なのはそこじゃないか。」


 私は弟子に格好を付けようとしている上に、更に我慢している。泣くのを我慢している。


「師匠、ウルってるよ。」


 簡単にバレてしまった。まぁ、仕方無いか。
 涙が溜まった目をゴシゴシこすりながら、弟子がまたPCのフジノウェーブを見つめる。でも、さっきとは違う。

「会いに行きますからね。」

 そう言ってウインドウを閉じた。


「にんじんよりバナナですって。」
「両方持っていけばいいだろ。」
「お金持ちですね!!」
「茶化すな!!」


 今、私たちはフジノウェーブに対する悲しみと思い出が詰まった尻尾を引きずりながら立ち止まっている。しかし
それじゃいけないだろう。その重たい尻尾をピンと立て、前に進まなければいけない。フジノウェーブを愛した自分達
を誇らしく思わなければいけない。

 献花にしろ供養にしろ自己満足だ、シニカルに捉えればそうなる。結局のところ何のために供養するか、それは
死者に向けて哀悼の意を表した自分に酔う為、なんて意見もあったりする。それもごもっともだと納得できてしまう
自分がちょっぴり悲しくもあるが、今回はそれだけではないぞと胸を張って言える。弟子に関してはそんなこと微塵
も思っていないだろうな。
 ただ、その要素も多分にあると白状しよう。実際に献花台に出向こうが、そこで仙人様に会えるわけではないのは
重々承知だ。しかし彼を愛せて良かったと思うナルシズムは確かに存在している。そんな気がする。そして、それは
何故かと言われたら、その馬が仙人様だからだという曖昧かつそれっぽい返答をするしかない。でもそう言い切れ
てしまうんだ。


 少なくとも、私たちは仙人様を知り、愛すことができて良かったんだ。


「おいしいヤツ探そ。」


 弟子は先程からバナナとにんじんを探しまくっている。さっきなんか最高級の高麗人参を私に見せて「これなんか
どうだろう」と言ってきた。ふざけるな、と言ってやったが、彼女の誇りが沢山詰まった尻尾が真上に立ってブンブン
振られている様が私には見えた。

 そんな気がする。




★フジノウェーブに向けての献花台が設置されます。飛天龍翔さん、情報ありがとう!!

11/4~8 大井競馬場
献花台と記帳台が設置されるそうです。

★弟子が見てた南関魂はコチラ。華代子さん、ストレート過ぎて涙が止まらなくなるよ・・・

ウェーブ、大好きだった!




※お礼※

前回記事にコメントをくれた皆様方、ありがとうございました。
別々にいつもはコメントの返事をさせていただいておりますが、今回は個々に言葉を選ぶことに難儀してます。

やっぱり、思い入れのある子との別れは辛いです。そこを気遣って頂いた方々に感謝!!
仙人様との別れの辛さ、そこに同意して頂いた皆様と共に、合掌・・・

自分にとって、賛成でも反対でも意見をくれる方というのは非常に有難いです。(荒らしをスルーしたことがあるけど)
今回は個々にコメ返せずに申し訳ない!!って「すこぉしだけ」思ってます。

本当に申し訳ないけど笑っちゃったのがGEEKさんのコメント。気を悪くしないで欲しいけどね・・・


>それにしても、こういう内容の時にランク落ちちゃうのはなんとも皮肉というか・・・


いや!!この内容で伸ばそうとした時点で俺オシマイですから!!
でも、この意見も凄くうれしいです。意見者として認められてる部分もちょっぴりあるんだなぁって勘違いをしちゃうぞ、
俺は!!

・・・ぶっちゃけ、前回も今回も、ランキングポイントへのクリック誘導はしちゃいけない内容だと判断してるんです。
こう言うとキタネーだろ、イェイ俺。


でもね、別れで伸びたくはないですよ。それも大好きな馬との別れで。ブログにするのもおこがましい。


大丈夫ですよ、明日から頑張ればいいんです。


だから天皇賞は頑張るぞ!!
良馬場ならヒット君だ!!



・・・コレを本日のオチとさせて頂きます。







[ 2013/10/25 01:57 ] 雑感 独り言 | TB(0) | CM(14)

こんなにも沢山のファンに深く愛されたフジノゥエーブ君は幸せ者だね。ただサクラ肉にされている何千頭もの馬達の命も決して忘れてはいけないのかも知れない。
[ 2013/10/25 02:38 ] [ 編集 ]

>緑さん

サクラ肉はサラブレッドの肉じゃないですよ。
競走馬が死んでしまった場合、行き着く先は動物園の肉食獣の飼料です。
[ 2013/10/25 03:07 ] [ 編集 ]

こんなカスにピリピリしちゃだめだよ師匠、中身が台無しになっちゃうよ。

サクラだとか馬刺しだとか言う奴は、そう言いたいだけのニワカか無神経な朴念仁なんだから。

まず、競走馬の死を憂うのにサクラなんて言葉を使うこと自体、阿呆の芸じゃないか。
[ 2013/10/25 08:33 ] [ 編集 ]

やはり残念です。

思いれが深いのは
どれだけ思い出・思い入れがあるかで決まると思っています。
常に一線級でレースを沸かせてきた高齢馬であれば、ひとしおでしょう。

リンク先も拝見いたしました。
やはり白い馬体もあるのでしょうが、綺麗ですねサラブレットって
[ 2013/10/25 10:00 ] [ 編集 ]

正直あまり地方を見なかったんですが、このブログと会って、チョイチョイ地方競馬の結果を見たり、競馬っていうのを色んな視点から観るっていう楽しみ方を教えてもらった一端は彼のおかげだと思います。そんな影響を与えてくれた長老を忘れずいようと思います。
[ 2013/10/25 11:23 ] [ 編集 ]

ボクもコスモサンビームが安楽死処分になった直後は中々立ち直れませんでした
立ち直るきっかけになったのはダービージョッキーってマンガでした
こんなところでもユタカさんに救われるとは
[ 2013/10/25 13:48 ] [ 編集 ]

武士道ですね

弟子ちゃん早く立ち直れるといいですね!!
フジノウェーブとのお別れは悲しいけど、彼と出会えたことは良かった。
とてもいい言葉だと思いました・・・

師匠、ご説明ありがとうございます。
よっ、男前っ!!
[ 2013/10/25 17:51 ] [ 編集 ]

競馬は思い入れだと思います。これがないとつまらないですよ。私もナリタブライアンのファンでして、彼が病死したときはショックでしたよ。まだ時々母父とかで馬柱に出てるとオッて思います。師匠も弟子さんも彼には沢山の思い入れがあるのでしょうね。それこそが愛。ゆっくり元気になって下さい。
[ 2013/10/25 22:22 ] [ 編集 ]

>虎犬さん

おっほぅ、辛口ぃ!!

酔ってました。(マジ)
[ 2013/10/26 00:55 ] [ 編集 ]

>ニコフさん

競馬見てる以上では様々な別れがあるものです、馬に限らず騎手だってそう。
どんな形であれ別れは悲しく辛いですね・・・

ここのところ、個人的には重いニュースが続いてますが、気をしっかり持って頑張ろうと思います。
[ 2013/10/26 00:57 ] [ 編集 ]

>あめさん

ここがきっかけでというのは嬉しい限りです。
仙人様の走りはこれからも語り継がれてもらいたいもの。

多く見ると辛いことも嬉しいことも多くなります、そこを良しと見るか悪しきと見るかは当人
次第なんでしょうけどね。

・・・条件戦とかろくに見てねぇんだけど、俺。
[ 2013/10/26 01:00 ] [ 編集 ]

>ろじさん

コスモサンビームの阪急杯はショッキングですからね・・・
やっぱり誰しも辛い経験ってしてるものですね。

ダービージョッキーって原作協力がユタカさんなんでしたっけ、
ブックオフで買ってくるかなぁ。
[ 2013/10/26 01:03 ] [ 編集 ]

>GEEKさん

これは武士道になるんかwww
じゃあ今回の記事は武士道に背いちゃったぞ、俺・・・

好きになって、金銭的に損をした子はいっぱいいますけど、基本的に
どの子も「好きになって良かった」って思える思い出ばかりですねー。
[ 2013/10/26 01:06 ] [ 編集 ]

>とりてんさん

ブライアンはドラマのある馬でしたからね・・・トップガンとの一騎打ちには
野暮な意見はいらないと思うけど、ブライアンファンは

「完調だったらあんな馬ブッちぎっとるわ!!!」

って言ったりするんだよな。それもまた愛だったりするわけで。

やっぱり血の繋がりって見ちゃいますね、俺も。母父見るのは楽しいです。
[ 2013/10/26 01:10 ] [ 編集 ]
立札4

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